前回は腎臓と尿路についての解剖をざっと解説しました。
前回の記事でも簡単に説明していますが、腎臓の主たる機能は尿の生成、そして尿路の主たる機能は腎臓で生成された尿の貯蔵と排泄でした。
今回の記事では腎臓の機能に焦点を当てて解説していきます。
ではなぜ、腎臓=尿の生成というイメージ付けがされるのでしょう。
教科書的には、腎臓とは体液の恒常性を保つため、①水分・電解質の調節、②酸塩基平衡の調節、③代謝産物の排泄、④ホルモンの産生・分泌の機能を有する臓器であるということが書かれていると思います。
この4つの機能のうち①~③の機能というのは尿の生成によって行われる機能であり、尿生成によって寄与する機能が腎臓自体の機能の3/4を占めているため、腎臓=尿の生成というイメージがついているのだと私は思います。
本記事では尿の生成、電解質の調節、尿生成に関与するホルモンの順で解説していきます。
Table of Contents 表示
尿生成と調節
尿生成は、糸球体、ボウマン嚢、尿細管からなるネフロンで行われる。
腎血流の約20%は糸球体で濾過され原尿となる。
原尿は血漿とほぼ同じ組成となっているが、ボウマン嚢を経て尿細管に流入し、尿細管で各物質の再吸収や分泌が行われることで最終的な尿へと組成を変えている。
【Fig.1】
原尿:約180L/日、尿量:約1.5L/日
原尿=尿ではないということに注意してください
尿の原料となる物が原尿、それから必要なものを再吸収して、不要なものがあれば分泌して最終的に尿が生成される。
尿生成では濾過、再吸収、分泌を経て、最終的に尿として排泄される物質の量が調節される。
糸球体で濾過されず、その後尿細管でも分泌されなかった物質は体内に残り、尿中には排泄されない。
糸球体で濾過された多くの物質は、再吸収や分泌といった調節を受けて、尿中への排泄率(排泄量/濾過量)が決定される。
排泄率(FE)とは、ある物質について糸球体で濾過された量のうち、何%が尿中に排泄されているかを示す指標である。
濾過後の再吸収・分泌の尿細管での調節機能を、水の再吸収の影響を除外して知ることができる。
ある物質のFEと血中濃度から、その物質の摂取状況や腎臓の状態を推測することができる。
糸球体係蹄壁によるサイズバリアとチャージバリア
大きさによる選択(サイズバリア)と荷電による選択(チャージバリア)によって特定の物質の身が濾過され原尿となる。
【Fig.2】
サイズバリア
糸球体係蹄壁の物理的な構造によって高分子物質(血球や多くの蛋白質)は濾過されにくい。
チャージバリア
基底膜が陰性に荷電しているため、電気的反発によって陰性荷電物質(アルブミンなど)は濾過されにくい。
しかし陰性荷電物質であっても分子量が小さいものは濾過されてしまう。
糸球体係蹄壁で濾過される物質は低分子かつ陽性荷電の物質であると言える。
例えば、電解質、グルコース、アミノ酸、尿素や尿酸、水、HCO3–、ビタミンなどが濾過される。
糸球体濾過量(GFR)の決定因子
GFR:glomerular filtration rate
単位時間あたりに両腎の糸球体から濾過される原尿の総量のことであり、以下の3つの要因によって決まる。
濾過の駆出力
糸球体毛細血管内圧が濾過を促進している。
以下の因子によって決まる
- 血圧
- 腎血漿流量
- 輸入細動脈の抵抗
- 輸出細動脈の抵抗
- 糸球体毛細血管内圧
濾過の抵抗力
駆出力に対抗する力で以下の因子によって決まる。
- 膠質浸透圧
- ボウマン嚢内圧
全糸球体血管透過性(Kf)
糸球体係蹄壁の圧透過係数と総濾過面積が透過しやすさを決定している。
GFRの調節
腎臓では血圧が大きく変動しても、腎血漿流量(RPF)とGFRは一定に維持され、体液の恒常性が保たれる。(腎臓の自己調節機能)
※BP80~180mmHgであれば自己調節機能が作用する
この自己調整機能には、傍糸球体装置による尿細管糸球体フィードバック(TGF)とレニン・アンジオテンシン系(RA系)、筋原性反応が関与している。
筋原性反応とは
輸入細動脈の平滑筋細胞が血管内圧の上昇によって収縮、内圧の低下によって拡張しようとする反射的な反応のことである。
筋原性反応はTGFと協調して、輸入細動脈の血管反応を抑制している。
TGFとRA系の作用
血圧が低下するとGFRも低下する。
しかし、Fig.3に示すような作用によって糸球体血管内圧が上昇する。
これにより、GFRを正常化する。
【Fig.3】
TGFの作用
①緻密斑が濾過量の減少を感知する(厳密にはCl–濃度の低下)
②糸球体外メサンギウム細胞を介してシグナルを伝達する
③輸入細動脈が拡張する
RA系の作用
①傍糸球体細胞が輸入細動脈血圧の低下を感知する(厳密には動脈壁の伸展低下)
②傍糸球体細胞がレニンを血中に分泌する
③RA系が活性化
④アンジオテンシンⅡによる輸出細動脈が収縮する
血圧が上昇するとGFRも上昇する。
しかし、Fig.4に示すような、RPFが低下し、糸球体毛細血管内圧が低下する。
これにより、GFRを正常化する。
【Fig.4】
TGFの作用
①緻密斑が濾過量の増加を感知する(厳密にはCL-の濃度上昇)
②糸球体外メサンギウム細胞を貸してシグナルを伝達する。
③輸入細動脈が収縮する
RA系
①傍糸球体細胞が輸出細動脈血圧の上昇を感知する(厳密には動脈壁伸展増加)
②傍糸球体細胞のレニン分泌が低下
③RA系の活性低下
GFRの上昇以外にも尿細管でのNaCl再吸収が低下した場合でも遠位尿細管腔内のCl–濃度が上昇するため、TGFが作用し輸入細動脈は収縮する。
血圧上昇時にもGFRはほぼ一定に保たれるが、最終的な尿量は大きく増加する。
尿細管の部位による特徴
糸球体で濾過された原尿は、近位尿細管に入り、ヘンレループ、遠位尿細管を経て集合管に至るまでに様々な調節を受けて尿となる。
近位尿細管
水、溶質を大量かつ非調節性に再吸収する。
ヘンレループ
対向流増幅系による皮質髄質浸透圧勾配の形成する。
遠位尿細管
緻密斑でGFRの変動を監視する。
集合管
ホルモンによる水・電解質の最終調節する。
間質の浸透圧勾配によって、水を再吸収する。
上皮輸送の経路と能動輸送の様式
上皮輸送の経路
尿細管における再吸収、分泌の過程では上皮輸送が行われており、その経路としては経細胞路と細胞間路がある。
間質に入った物質はそのまま毛細血管内に移動する。
【Fig.5】
能動輸送の様式
能動輸送はATPを消費して能動的に物質を輸送する様式のことです。
これにより、分画間の濃度差や電位差と逆行する輸送が可能となる。
直接的にATPを消費する一次性能動輸送と一次性能動輸送により形成された電気化学ポテンシャル勾配を利用した二次性能動輸送とに分けられる。
また、Na+/H+交換輸送体のようにNa+と逆方向に物質を輸送する二次性能動輸送もある。
ATPを消費せずに、輸送体を隔てた分画間に濃度差や電位差によって行われる輸送は受動輸送と呼ぶ。
【Fig.6】
一次性能動輸送
Na+/K+ ATPaseはATPのエネルギーにより3Na+と2K+を輸送する。
電気化学ポテンシャル勾配の形成
細胞内のNa+濃度が低下する。
Na+/K+ ATPaseにより輸送される陽イオンの個数に差があるため、細胞内は負電位となる(細胞内から3つのNa+を出し、間質から2つのK+を取り込む為、1つ分の差があるため負電位となる)
細胞内のK+が濃度差によってK+チャネルを通り細胞外へ出ていくようになり、細胞内の負電位が維持される
二次性能動輸送
Na+の電気化学ポテンシャル勾配を利用してグルコース(Glu)とNa+が共に細胞内に輸送される。
一次性能動輸送の結果、二次性能動輸送が起こるので、一次性能動輸送が何らかの理由により障害されると、二次性能動輸送の機能しなくなる。
長くなってしまったので一旦終了!
次回、核物質の再吸収と分泌、尿生成に関与するホルモンについて解説していきます。