今回の記事で『呼吸器の解剖生理』シリーズは完結となります。
本記事は肺におけるpHの調節に焦点を当てて解説していきます。
酸塩基平衡というと血液ガス(血ガス)とういイメージがあると思いますが血ガスについては後日別記事で解説したいと思います。
ですので今回はさらっと簡単に解説していきます。
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pHの正常値
【Fig.1】
pH=7.40±0.05が正常値です。
この正常値の範囲を超えてしまうと異常が出始めます。
pHは基本的に動脈血のpHのことを指します。
pH:potential of hydrogen
日本語で水素イオン指数と言います。
医療現場では「ピー・エイチ」、「ペー・ハー」と呼ばれます。
pHの調節機構
血液は代謝によって生成される揮発性酸(CO2)と不揮発性酸(乳酸、リン酸、ケトン体など)により常に酸性に傾きやすい状態にある。
そのため、過剰に生成された酸を捨てて、血液中のpHの変化を最小限に抑えpHを維持する働きがある。
『揮発性酸』
気体として排出される酸性物質
肺から排出されるCO2を指す
『不揮発性酸』
腎からH+として尿中に排泄される酸性物質
乳酸、ケトン体、リン酸、硫酸、硝酸などがある。
血液中のpHを維持する働きは大きく3つある
- 緩衝系
- 肺での揮発性酸排出
- 腎での不揮発性酸排泄
緩衝系には、重炭酸緩衝系、リン酸緩衝系、血漿蛋白質緩衝系(ヘモグロビン緩衝系など)があり、pH調節のスピードは秒単位と速い。
リン酸緩衝系
H2PO4 ⇄ H+ + HPO4–によって構成される緩衝系
細胞内液および尿細管液の緩衝作用の役割を担っている。
血漿蛋白質緩衝系
H蛋白質 ⇄ H+ + 蛋白質–によって構成される緩衝系
蛋白質は体内に多くある緩衝物である。
主なものとして、HHb ⇄ H+ + Hb–によって構成されるヘモグロビン緩衝系がある。
重炭酸緩衝系(重要!!)
生体の緩衝系の中で最も重要な役割を果たしているのが重炭酸緩衝系であり、揮発性酸を肺で排出し、不揮発性酸をH+として腎で排泄しいてpHの維持に関与している。
重炭酸緩衝系とはその名の通り重炭酸(HCO3–)が関与している緩衝作用である。
重炭酸イオン(HCO3–)はアルカリ性(塩基性)であるので極端な話、酸をHCO3–で中和しているイメージです。
重炭酸緩衝系の平衡式
呼吸性調節
代謝によって組織(細胞)から血中にCO2が排出されるとRBC内で
CO2 + H2O → H2CO3 → H+ + HCO3–
へと変換される。
血中にH+が増加するのでpHは低下する(酸性に傾く)
その後肺胞付近で重炭酸緩衝系がH+を下げようと働き始める。
H+ + HCO3– → H2CO3 → CO2 + H2O
と変換されてCO2は肺胞へ拡散されて呼気とともに大気中に排出されるためpHは7.40±0.05に保たれる。
緩衝系のpH調節スピードは秒単位と早いが、肺での揮発性酸の排出によるpH調節スピードは秒~分単位と緩衝計の調節スピードと比べるとやや劣る。
pH規定因子
重炭酸緩衝系でのpHは以下の式で表される。
上式はHenderson-Hasselbalch(ヘンダーソン・ハッセルバルヒ)の式と呼ばれる式です。
上式の『6.1』という数字は解離定数(K)といい、誰にも代えることのできない数字ですw
CO2は肺で調節されるのでPCO2を呼吸性因子と呼び、HCO3–は主に腎で調節されるため代謝性因子と呼ばれます。
代謝性調節
代謝によって組織(細胞)から血中に不揮発性酸が排出される。
この不揮発性酸はH+を放出するため血中にH+が増加するためpHは低下する。
不揮発性酸はH+として腎から尿中に排泄されるためpHは7.40±0.05に保たれる。
腎での不揮発性酸の排泄によるpH調節スピードは時間~日単位と一番スピードが遅い。
アシドーシス・アルカローシスと代償作用
血液中のpHがアシデミア(pH<7.35)に傾く病態をアシドーシスと呼び、アルカレミア(pH>7.45)に傾く病態をアルカローシスと呼びます。
pHがアシデミアまたはアルカレミアに傾くと、肺や腎による代償作用が働き、pHを7.40±0.05に近づけるように働きます。
「え~マジ!?」と思われるかもしれませんが学生時代パパはアシデミア=アシドーシス(アルカレミア=アルカローシス)だと思っていました。
実際にはpHを酸性側(アルカリ性)にしようとする状態をアシドーシス(アルカローシス)といい、pH<7.35(pH>7.45)になった状態をアシデミア(アルカレミア)といいます。
混同しないように注意しましょう
代表的なパターンを4つ紹介します。
パターン①:PCO2上昇!
何らかの障害によりPCO2が上昇するとpHはアシデミア側に傾く
- 呼吸不全
- CO2ナルコーシス
- 睡眠時無呼吸症候群 など
PCO2は呼吸性因子であり、アシデミア側に傾いているのでアシドーシス
HCO3–の再吸収を促進
血液中にHCO3–を再吸収することでpHを正常に近づけようとする
パターン②:PCO2低下
何らかの障害によりPCO2が低下するとpHはアルカレミア側に傾く
- 過換気症候群 など
PCO2は呼吸性因子であり、アルカレミア側に傾いているのでアルカローシス
HCO3–の排泄を促進
血液中のHCO3–を排泄することでpHを正常に近づけようとする
パターン③:HCO3–低下
何らかの障害によりHCO3–が低下するとpHはアシデミア側に傾く
- 腎不全
- 下痢
- 糖尿病ケトアシドーシス
- 乳酸アシドーシス など
HCO3–は代謝性因子であり、アシデミア側に傾いているのでアシドーシス
CO2の排出を促進
血液中のCO2をさらに排出することでpHを正常に近づけようとする
パターン④:HCO3–上昇
何らかの障害によりHCO3–が上昇するとpHはアルカレミア側に傾く
- 嘔吐
- 利尿剤投与 など
HCO3–は代謝性因子であり、アルカレミア側に傾いているのでアルカローシス
CO2の排出を抑制
血液中のCO2の排出を抑制することでpHを正常に近づけようとする
腎での代償作用は、H+の分泌変化によるもののため、効果の発現には12~48時間と時間を要する。
それにくらべて、肺での代償作用は、呼吸数の変化によるもののため、速やかに効果が発現する。
お知らせ
本記事を持ちまして呼吸器の解剖生理の講義は完結します。
次回(8月14日)より循環器の解剖生理の講義を始めていきます。
お盆も休まず頑張ります!
これからも『ほのぼのCEライフ』をよろしくお願いいたします。