血液ガスの読み方!② – 酸塩基平衡の評価 –
血液ガスデータから酸塩基平衡の異常を読み取る方法を解説
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血液ガス分析の評価方法(酸塩基平衡異常の評価)
アシデミアかアルカレミアか正常化を評価をする。
PaCO₂、HCO₃⁻、BEを評価をする。
呼吸性アシドーシス/アルカローシス、代謝性アシドーシス/アルカローシスの鑑別をする。
AG、補正AGの評価をする。
AG正常型代謝性アシドーシス、AG上昇型代謝性アシドーシスの鑑別をする。
AG上昇型代謝性アシドーシスの場合、補正HCO₃⁻の評価もする。
代償が適切に行われているかを評価する。
適切でない場合、他の異常が起きている可能性がある。
必要最低限評価できるようになってほしい項目には黄色マーカーを引いています。
酸塩基平衡異常の評価
pH:水素イオン指数
水素イオン(H⁺)の濃度を示したもの。
基準値7.35~7.45
アシデミアとアルカレミアと人体への影響
アシデミア
酸性に傾いている状態。(pH<7.35)
酸性物質のCO₂やH⁺が蓄積することで起こる。
心血管 | ・収縮能力障害 ・末梢動脈拡張 ・カテコラミン反応低下 ・致死性不整脈 |
代謝 | ・インスリン抵抗性 ・代謝阻害による高血糖 ・高K血症 ・ATP合成抑制 |
神経 | ・グリア細胞の腫脹や細胞機能障害による昏睡や知覚鈍麻 |
呼吸器 | ・気管支平滑筋の弛緩 ・換気促進 ・酸素化ヘモグロビン解離の増加(酸素解離曲線右方移動) |
アルカレミア
アルカリ性に傾いている状態。(pH>7.45)
酸性物質のCO₂やH⁺が減少することで起こる。
心血管 | ・末梢動脈収縮 |
代謝 | ・低K血症 ・低Mg血症 |
神経 | ・テタニー ・痙攣発作 |
呼吸器 | ・酸素化ヘモグロビン解離の減少(酸素化解離曲線左方移動) |
『右方偏移』
Hbと酸素が結合しにくく、放出しやすい状態で血中に酸素が多く溶け込んでいる状態。
原因PaCO₂上昇、pH低下、体温上昇など
『左方偏移』
Hbと酸素結合力が強くなり、通常以上に血中の酸素がHbと結合する状態。
原因PaCO₂低下、pH上昇、体温低下など
p44 図18 酸素解離曲線より転載
ひとつずつ、わかりやすく!血液ガス分析 編者:若林侑起 (株式会社Gakken)
呼吸性か、代謝性か
アシドーシスとアルカローシス
アシドーシス:血液を酸性に傾けようとする病態。(酸性物質が蓄積している状態)
アルカローシス:血液をアルカリ性に傾けようとする病態。(酸性物質が減少している状態)
HCO₃⁻:重炭酸イオン
基準値22~26mEq/L
H⁺と反応して中和する物質の1つでCl⁻の次に多い陰イオンである。
H⁺と結合することで炭酸(H₂CO₃)に変化し炭酸は肺へ移動するとCO₂とH₂Oに分冠され、CO₂として体外に排出、腎臓ではHCO₃⁻とH⁺に分解され、H⁺だけ尿中に排出される。
CO₂+H₂O⇔H₂CO₃⇔H⁺+HCO₃⁻
HCO₃⁻は近位尿細管で再吸収され、再びH⁺と結合することができる。
HCO₃⁻によって酸性物質を排出することを「重炭酸緩衝系」と呼ぶ。
PaCO₂:動脈血二酸化炭素分圧
基準値35~45mmHg
CO₂はエネルギー産生の代謝産物として生成され、体内に蓄積すると酸性に傾く、肺から体外へ排出することで酸塩基平衡を保っている。
BE:過剰塩基
基準値-2~2mEq/L
HCO₃⁻や蛋白質など塩基性物質が血中に過剰増加しているかどうか評価する指標。
アシデミアの場合、酸塩基平衡を保つために酸性物質が消費されるため、BEはマイナスに傾く。
アルカレミアの場合、塩基性物質が過剰となっているため、BEはプラスに傾く。
呼吸性アシドーシス
診断基準PaCO₂>45mmHg
CO₂が増加している状態。
原因主に肺胞低換気
肺以外の原因で肺胞低換気から呼吸性アシドーシスになることもある。
呼吸性アルカローシス
診断基準PaCO₂<45mmHg
CO₂が減少している状態。
原因換気量増加、呼吸数増加
過換気症候群やアスピリン中毒(過呼吸が生じる)など
代謝性アシドーシス
診断基準HCO₃⁻<22mEq/L、BE≦-2mEq/L
H⁺が増加している状態、血液ガス分析ではHCO₃⁻の減少で見分ける。
HCO₃⁻が消費され、減少すると減少した分を補わないと陽イオンとのバランスが崩れる、そのため減った分を他の陰イオンで補っている
AGの値によって「AG正常型代謝性アシドーシス」と「AG上昇型代謝性アシドーシス」に分けられる。
(これらの原因はについてはアニオンギャップの評価の項目で解説)
代謝性アルカローシス
診断基準HCO₃⁻>26mEq/L、BE≧2mEq/L
原因嘔吐、NGチューブからの胃液大量吸引、多尿、ループ利尿薬、チアジド系利尿薬の内服
混合性アシドーシス
H⁺、CO₂が増加しているが肺と腎臓両者に障害があり、それらを十分に排出できない状態でpHが酸性に傾く病態。
混合性アルカローシス
肺と腎臓両者でH⁺やCO₂を排出しすぎるため、pHがアルカリ性側に傾く病態。
アニオンギャップの評価
AG:アニオンギャップ
基準値12±2mEq/L
どんな病態によって代謝性アシドーシスが起こっているか絞り込むことができる。
血液中の陽イオンと陰イオンは同じ量存在する。
血液中に含まれる主な陽イオンはNa⁺(他にもK⁺やMg⁺があるが微量のため無視)、陰イオンはCl⁻、HCO₃⁻、その他の陰イオンとなる。
陰イオン全体からCl⁻とHCO₃⁻を除いたその他の陰イオンをアニオンギャップ(AG)と呼び、その他の陰イオンにはリン酸塩、硝酸塩、アルブミンなど血中で陰イオン化するものが含まれる。
計算式AG=Na⁺-(HCO₃⁻+Cl⁻)
低アルブミン血症のときはある場合は、補正AGで計算する。
計算式補正AG=AG+2.5(4-血清アルブミン値)
血清アルブミンが低いとき、通常のAGの計算式で計算するとAGが少なく見積もられてしまうので補正AGの計算式で計算する。
AG正常型代謝性アシドーシス
陰イオンが減った分をCl⁻が増えることで陰イオンを調整する病態の代謝性アシドーシスのこと。
AG<12±2mEq/L(低アルブミン血症のときは補正AGを計算)
原因下痢、尿細管アシドーシス、生食大量投与、アセタゾラミド
AG上昇型代謝性アシドーシス
陰イオンが減った分をAGが増えることで陰イオンを調整する病態の代謝性アシドーシスのこと。
AG>14mEq/L(低アルブミン血症のときは補正AGを計算)
原因乳酸アシドーシス、ケトアシドーシス、腎不全、薬物中毒
AG上昇型代謝性アシドーシスの場合、補正HCO₃⁻を計算して他の酸塩基平衡がないか確認する。
補正HCO₃⁻
計算式補正HCO₃⁻=実測HCO₃⁻+(実測AG-12)
AGの増加分とHCO₃⁻の減少分は同量となるため、AGが増加した分をHCO₃⁻に足すとHCO₃⁻は正常に戻るはずだが、HCO₃⁻が他の要因で増減していると正常値には戻らず、他にHCO₃⁻を変化させる病態が存在することになる。
評価方法
・補正HCO₃⁻=24~26mEq/L:他の酸塩基平衡異常の合併はない。
・補正HCO₃⁻>26mEq/L:HCO₃⁻を増やす病態がある。(代謝性アルカローシス)
・補正HCO₃⁻<24mEq/L:HCO₃⁻を減らす病態がある。(AG正常型代謝性アシドーシス)
代償は適切か
代償とは?肺と腎臓の助け合い
腎臓がダメな時、腎臓の代わりに肺が酸塩基平衡の調整を頑張る。
これを呼吸性代償と呼び、CO₂の排出を調整する。
肺がダメな時、肺の代わりに腎臓がに酸塩基平衡の調整を頑張る。
代謝性代償(=腎性代償)と呼び、H⁺の排出を調整する
代償のルール
PaCO₂とHCO₃⁻は同じ向きに動く。
代償にも限界がある
pHは7.40に近づくが、完全に7.40になることはない。
pHが7.40に戻ったり、7.40を超えて代償しすぎている場合、複数の酸塩基平衡異常があると考えられる。
代償に対する時間(速度)
肺での調整は換気量や呼吸数を調整することで可能となるため比較的容易で速い。
腎臓は、HCO₃⁻の再吸収を調整しなくてはいけないため、数時間~数日の時間を要する。
急性に変化(数日以内)と慢性的に変化(数日以降)では代償の程度が変わり、慢性の方がよりpHは7.40に近づく。
代償の目安
代謝性アシドーシスのとき、『HCO₃⁻が1mEq/L減るとPaCO₂は1.2mmHg減る』
代謝性アルカローシスのとき、『HCO₃⁻が1mEq/L増えるとPaCO₂は0.7mmHg増える』
呼吸性アシドーシス(急性増悪)のとき、『PaCO₂が10mmHg増えると、HCO₃⁻は1.0mEq/L増える』
慢性的な変化のとき、『PaCO₂が10mmHg増えると、HCO₃⁻は3.5mEq/L増える』
呼吸性アルカローシス(急性増悪)のとき、『PaCO₂が10mmHg減ると、HCO₃⁻は2.0mEq/L減る』
慢性的な変化のとき、『PaCO₂が10mmHg減ると、HCO₃⁻は5.0mEq/L減る』