前回は心筋の収縮、弛緩の仕組みについて小難しくわかりづらい解説をしました。
今回はより身近に感じる、心周期と心機能について解説していきます。
心周期
心臓は収縮→弛緩→収縮→・・・というのを周期的に繰り返している。
収縮→弛緩これを心周期と呼んでいる。
心室が収縮しているときを収縮期(心室収縮期)と呼び、弛緩して心室が拡張しているときを拡張期(心室拡張期)と呼ぶ。
収縮期、拡張期ともにもっと細かく分類されている。
(Fig.1~8に記載されているⅠ~Ⅳcに分類される)
- Ⅳc:心房収縮期
心房が収縮して心房から心室へ血液が流れ、房室弁(MV、TV)が開いている状態 - Ⅰ:等容性収縮期
心室内圧が心房内圧を上回り房室弁が閉じ、動脈弁(AV、PV)も閉じている状態
入口も出口も閉じており、心室内の容積が一定の時期
心室圧が大動脈圧を超えてAVが開くまで約0.02~0.06秒かかる - Ⅱa:急速駆出期
字のごとく動脈弁が開き勢いよく駆出される時期 - Ⅱb:低減駆出期(緩徐駆出期とも呼ばれる)
まだ心室内の血液を駆出しているがⅡaに比べると緩徐に駆出される時期 - Ⅲ:等容性拡張期
動脈弁が閉じ、房室弁も閉じている状態
等容性収縮期同様、入口も出口も閉じており、心室内の容積が一定の時期
AV、PVが閉じ房室弁が開くまで約0.05~0.10秒かかる - Ⅳa:急速充満期
心室内圧が心房内圧を下回ると房室弁が開き、勢いよく血液が流入してくる時期 - Ⅳb:低減充満期(緩徐充満期とも呼ばれる)
心室内への血液流入が緩徐になる時期
そしてⅣcの心房収縮へとつながる
左心系内圧
※本記事では左心系内圧のみを扱う、右心系内圧は後日心臓カテーテル検査の記事で詳しく解説します。
大動脈圧(AP)
【Fig.1】
左心室圧(LVP)
【Fig.2】
左心房圧(LAP)
【Fig.3】
左心系内圧とMV、AVの関係
【Fig.4】
AVはLVPがAPより上昇した際にAVが開口して、LVPがAPより低くなったらAVが閉鎖していることがわかる。
MVもAVと同じような動きをしており、LVPが収縮により上昇するとMVは閉鎖して、LVPがLAPより低くなった時にMVが開口する。
左室容積
【Fig.5】
当たり前と言えば当たり前のことではあるが、AVが開口~閉鎖までの間は左室容積は減少していき、AV閉鎖後からまた増加していることがわかる。
Ao、CAへの血流量
【Fig.6】
Fig.5からもわかる通り、拡張期では大動脈の血流は停滞しており、AV開口とともにLVPの影響を受け、勢いよく血液が流れ、LVPのピーク圧の少し手前から血流量は減少していることがわかる。
また、CAはAV開口時は弁尖によりCA分岐部が塞がれるため、一時的に血流が途絶えるが、その後徐々にCAに流入していき、AV閉鎖を機にAPによりCAへ血液が流入している。
まとめると、大動脈へはAV開口と同時に多くの血液が流入するが、CAにはあまり流入しない、AV閉鎖以後大動脈への血液の流入は止まるが、CAへはAPにより、血液が流入する。
このCAへの血液流入は拡張期(特にAV閉鎖後より急速に流入する)に起こるということが重要です。
このことは後日記事を書く大動脈内バルーンパンピング(IABP:intra-aortic balloon pumping)においても重要なかかわりがあるので覚えておきましょう!
心電図
【Fig.7】
心電図に関しては後日、心電図の記事で詳しく説明します。
P波は心房の活動電位、R波は心室の収縮期の始まりでR波の頂点からT波の終わりまでが収縮期の活動電位ということを覚えておきましょう。
心機能と循環調節
血圧
血圧とは血液が血管壁に与える圧力のことです。
みなさんは電気の『オームの法則』を覚えていますか?多分小学校?中学校?の理科の授業で習っていると思うのですが
臨床工学技士を目指している学生さんならわかりますよね!
電圧(V)=電流(I)×抵抗(R)
これにならって血圧を求めることができます。
電圧を血圧と置き換え、電流を血流(厳密には心拍出量)、抵抗を全末梢血管抵抗に置き換えることで計算することができます。
血圧(BP)=心拍出量(CO)×全末梢血管抵抗(TPR)
ね?オームの法則と一緒でしょ?
えーっとオームの法則を思い出せない方はオームの法則のことは忘れてください。
心拍出量(CO:cardiac output)
単位はL/min
CO=心拍数(HR)×一回拍出量(SV)
心拍数(HR:heart rate)
単位は回/minやbpm(beats per minuteの略
一回拍出量(SV:stroke volume)
単位はL/回
全末梢血管抵抗(TPR:total peripheral resistance)
前負荷・後負荷とは
心室が収縮を始める前に心室にかかる負荷を前負荷、心室が収縮を始めた後に心室にかかる負荷を後負荷という。
【Fig.8】
前負荷
拡張終期に心室に流入した血液量が負荷の要因になる。
心室拡張終期容積や心室拡張終期圧で前負荷を評価することができる。
前負荷は血液量による負荷なので容量負荷とも呼ばれる。
【前負荷増大の仕組み】
- 流入する血液量が増大することにより、心臓は通常時より大きく拡張する。
- 拡張した分大きく収縮するのでSVは増加する
(Frank-Starlingの法則による)
【Fig.9】
Frank-Starling(フランク スターリング)と読みます。
心室内に流入する血液量が増加して、心室が伸ばされると心筋の長さが増します。
そうすると心筋の収縮力が強くなり、結果的にSVが増加する。
しかし、前述したように繰り返し伸び切ってしまった心筋の場合、徐々に収縮力が弱まり、SVが低下していく。
慢性的に前負荷がかかると、心臓は拡大する。(これを心拡大という)
心拡大になると十分に収縮することが困難となり、SVを維持することができなくなる。(これを収縮能低下という)
イメージとしては、風船を破裂するギリギリまで膨らまして、空気を抜いてを何度も繰り返すと、空気を抜いた状態の風船の大きさは同じ新品の風船に比べて伸びてしまって新品の風船よりも大きくなりますよね。
ゴムが伸びてしまって元の大きさに戻る力が弱まってしまう。
このようなことが心臓にも起こり、SVが維持できなくなってしまう。
後負荷
心室が末梢血管抵抗に逆らって血液を送り出すために必要な圧力が負荷の要因となる。
左心系ではAoP(大動脈圧)、右心系ではPAP(肺動脈圧)で後負荷を評価できる。
後負荷は圧力による負荷なので圧負荷とも呼ばれる。
【後負荷増大の仕組み】
- 末梢血管抵抗が増大
(動脈硬化や末梢血管の狭窄や閉塞による) - 末梢血管抵抗が増大することで通常よりも強く収縮する必要がある
収縮力を増大して拍出するためには心筋を太くする必要がある
【Fig.10】
慢性的に後負荷がかかると心臓が肥大化してしてくる。(心肥大という)
肥大化が進むと拡張性が低下するため十分なSVを維持することができなくなる。(これを拡張能低下という)
イメージとしては、ゴムの薄い風船とゴムの厚い風船どちらが膨らませやすいですか?
ゴムが厚い風船だと膨らませることが大変ですよね。
心臓でも心筋が太くなると収縮力は強くなりますが、拡張することが困難になってしまいます。
循環調節機構
循環系のホメオスタシスは、血圧をある一定範囲に保つことである。
ホメオスタシスとは
環境が変化しても体の状態を一定に保とうとする生体的働きのことである。
そのために自律神経による神経性調節、ホルモンなどによる液性調節、各臓器への血流配分を調節するために自己調節能や傍分泌による局所性調節がある。
心筋の収縮力は心筋障害によっても低下する。
化学受容器、圧受容器、浸透圧受容器が血行動態をモニタリングし、何かしらの変化が起きた時に神経性調節、液性調節を作動させている。
神経性調節と液性調節の作動メカニズム
- 大脳皮質
精神的ストレスと感知 - 間脳(視床下部)
浸透圧受容器が血漿浸透圧の変化を感知 - 延髄の化学受容器
血中のCO2上昇によるpHの変化を感知 - 延髄の循環中枢
寒冷刺激・疼痛刺激などを感知
各々で感知した情報をもとに交感神経・副交感神経を制御する - 圧受容器
頸動脈洞、大動脈弓、右心房入口に存在している
これらで血圧の変化を感知しその情報を迷走神経や舌咽神経によって延髄に伝達する - 化学受容器
頸動脈小体、大動脈小体で血液中のPO2の変化を感知
延髄に情報を伝達する - 腎臓
傍糸球体装置の圧受容器が血圧を感知
緻密斑の浸透圧受容器が血漿浸透圧を感知
RAA系の分泌 - 下垂体後葉
ADHを分泌 - 副腎
カテコラミンを分泌
主要臓器の循環調節
運動時のCOは、安静時に比べてHRが約3倍、SVは約1.5倍増加して最大で約5倍増加する。
BPやCOが変化しても、脳や冠状動脈、腎臓などの生命維持のために重要な臓器への血流量は一定に保たれる。
これは、循環調節機構によって各臓器、組織への血流配分が調節されているためである。
【Fig.11】
静脈還流の仕組み
静脈還流とは、全身に送り出された血液が、静脈を通って心臓に戻ってくる流れのことをいう。
静脈還流には、心臓の拡張による吸引、胸腔内圧の変化、下肢骨格筋のポンプ作用、静脈弁による逆流防止が関与して成り立っている。
呼気時に比べて吸気時の方が静脈還流は増大する。
吸気時に静脈還流が増大する機序
- 吸気により胸腔内圧が低下
- 胸部の静脈が拡張、横隔膜が下がることで腹腔内圧が上昇し腹部の静脈が収縮する
- 心臓への流入血液が増加